都内でも、それなりに冷たい風を感じる様になってきたな・・・。
そろそろ12月になろうとしているのだから、当然と言えば、そうなのだろう。
「今日は、そのまま帰っちゃうんですか?」
「そうだな・・・。 終わる時間にもよるけど、取り合えず、
終わったら電話しようか?」
今回は、打ち合わせの前日にこちらへ来て、彼女の家に泊まった。
先方と約束している時刻は午後6時だから、それからとなると、
彼女と会える時間があるのか、少し検討が付かなかった。
「じゃあ、またケーキ買って、待ってますね。」
嬉しそうに、彼女が微笑んでいる。
「・・・毎日そんなの食べてると、太るぞ。」
機嫌の良さそうな面持ちが、若干拗ねた物に変わる。
彼女はダイエットという言葉とは無縁そうなスタイルをしているが、それでも、
こういう話は禁句の様だった。
「もしかしたら、話が長引いて会えなくなるかもしれないし、そうしたらカナに悪いから、
俺の事は気にしなくて良いよ。」
「そっかぁ・・・。」
残念そうに彼女は呟いた。
「昨日ので、俺は十分だよ。」
昨夜、彼女は、手料理とケーキを用意してくれていた。
この歳になって、誕生日を祝って貰う事になるとは思いも寄らなかったが、
彼女は随分と張り切っていた様だった。
「明日は仕事が入ってますけど、でも晩御飯くらいは・・・。」
少し寂しそうに、彼女が俺を見つめる。
―――もう1日、泊まっていっても良いが・・・。
「それだと、カナが辛く無いか?」
「いえ、私、義人さんと一緒に居れた方が嬉しいです。」
彼女は、少し恥ずかしそうに目を伏せながらも、楽しそうに笑っていた。
そんなに嬉しそうな笑顔で言われたら、断りようが無いな・・・。
俺も二人で居れる分には楽しいし、カナが負担にならないのなら泊まっていくか。
「じゃあ、明日帰るよ。」
そう言うと、彼女は随分と嬉しそうな面持ちになり、色々と考えに耽り始めた様だった。
何と無く、今夜もケーキが用意される気がする。
・・・甘い物は嫌いじゃないし、まぁ良いか。
「着いたぞ。」
そう言って、スタジオの前に車を停める。
「えっ・・・。」
少し慌てて、彼女は周りを見渡した。
「早く行かないと、本当に見つかるぞ。」
今の処、車の中にいる人物の顔が判断出来る程、近くに居る通行人は見当たらない。
もし誰かに見られたとしても、誰かの車から出てきたと思う程度だろう。
「じゃあ、また後で・・・。」
彼女はそう言い残し、小走りで建物の入り口に向かった。
正直、俺はもう見られても良いと思うんだがな・・・。
最近の彼女は、其れなりに休みが取れている様子だったし、以前の様に、
一日中緻密なスケジュールに追われている感じでもない。
この様子だと、近いうちに現実的な話が出来そうな気もする。
そうなったら、カナの事務所にも報告が必要だろうな。
一緒に暮らすのなら、彼女には、井七里に来て貰う事になる。
生活環境は、仕事のモチベーションに大きな影響が出てしまう。
都会の喧騒の中では、おそらく良い物が作れないだろう。
―――そう言った事を、そろそろ話し合うべき時期なのかもしれないな。
彼女が建物に入っていく姿を見送ってから、俺は車を出した。
さて、これからどうするか・・・。
約束の時間までには、未だかなり有る。
・・・適当に、その辺を見てみるか。
いつもは都内に来ても、用事が終われば、殆ど直ぐに帰宅していた。
元々人込みが苦手な方ではあるし、めったに街中をうろつく事は無い。
こういう気分になるのは、自分でも珍しい事だと思いながらも、
駅前のパーキングに向かって車を走らせた。
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