あるところに、小汚い猫がおりました・・・・
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それは、鎧を着て、つめを研ぎ、出せない声を張り上げる
その癖、無防備な猫、一人ぼっちの猫
その猫は、温かい光を探して・・
迷子
冷たい雨が、固まって眠ろうとしている猫の背中を、痛いほど打ち付けていた。
暗い空を見上げた猫の、半開きになった赤い口にも、
容赦なく、針のように落ちてくる雨・・・
誰も、猫を見つけられない・・・見つけてくれない。
猫は、固まった身体を、伸ばしてみた。
痛みが、身体中を電気のように走っていく。
痛みへの恐怖が、また、猫を固まりに変えようと襲いかかる。
ギィギィと、壊れたおもちゃのような音が、猫の身体から聞こえた。
無理なのだろうか、動き出すのはもう、無理なのだろうか。
固まってしまった、身体とココロは
前のように、柔らかく光の中で、手足を伸ばし、眩しさに目を細める事すら
もう無理・・・・。
光は、どこに行ったのだろう。
半分身を起こしたまま、頭をたれて猫は泣いた。
「痛い、痛い」
雨は、銀色の矢のように、猫の毛皮を打ち付ける。
毛皮から、糸のように流れて行く雨。
ブルブルブルっと猫は身体を揺すった。
痛みに声を張り上げる。
前足に、力が加わり、重い鎧の身体を起こしはじめた。
昨日までの猫は、ここには居ない
明日からの猫も、ここには居ない。
今、ここに猫が居るだけ。
声のない咆哮が、厚い雲へと登って行く。
猫は、ここにいた。
泣き、叫び、痛む身体と心を必死に奮い立たせて、
猫は、ここに居る。
ガラガラと、固まった毛皮の鎧から、少しずつシガラミというネジが落ちる。
その度に、痛みが猫を襲う。
更に、ゆっくりと猫は頭を振る。
耳を覆っていた、黒い塊が、ほんの少し剥がれ落ちる。
猫の口から、悲鳴が落ちる。
これだけ痛いのに、これだけ苦しいのに
誰も助けてくれないの?
誰も気づいてくれないの?
そう思いながら・・・でも、猫はやめない。
落ち行く鎧の下から、真っ赤な血が流れようとも、
猫は、止めてはいけないのだ。
座り込みたくなる想いを押し殺し、
猫は、動かない足を一歩踏み出そうとしている。
「助けて、助けて」と、叫びながら、前に出るのだ。
見えない目が見つめているのは、これから進もうとする迷路。
じっと待っていた 「いつかきっと何かが」は
この見えない迷路の先にあるのだろうか。
また一歩、叫びと涙と共に、猫は歩いた。
そして、また一歩。
傷ついた体と、心はこれ以上の痛みに耐えられるのか、
傷ついた体と、心は、これ以上の悲しみに押しつぶされないのか。
でも、猫は知っていた。
自分がここにとどまっている事こそが、一番の苦しみだと。
「きっと、いつか、何かが」
猫は、今、戦っている貴方です。
猫は、今、失っている貴方です。
そして、猫は 今も、泣いている貴方です。
差し出す手が必要なら、あらゆる手が、猫を支えるでしょう。
満たしす心が必要なら、いくつもの心が、猫を満たすでしょう。
この先の迷路で、猫は、幾度も迷うでしょう。
灯す明かりが必要なら、星の数ほどのともし火が見えるはず。
いつかきっと、何かが、猫を愛してくれることを
いつかきっと、何かが、猫を理解してくれることを
いつかきっと・・・何かが変わることを
望んでいる猫は、今、ここで立ち上がろうともがいています。
迷子の猫は、いつまでも迷子ではいられない。
この迷路には、行き止まりがないのを、行き着く先がない事を
そして出口は過去には、繋がらないことを・・・。
猫はまだ、気づかない・・・今もなお、歩いているから・・・。
迷路は、前へ進み、道は後からついて来る・・・
小汚い猫は気づかない、歩き出す度に痛みが和らぐことに。
一人ぼっちの猫は気づかない、自分と歩む影があるのことに。
そう、ここに居ます・・・猫はもう、一人ぼっちじゃない。
いつも、ここに居ます・・・。