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天使が舞い降りた日」
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「また、そんなの見て、ニヤ付いてるのか?」
否定的な言葉とは裏腹に、優しげな響きが、耳に心地良く入ってくる。
「だってぇ・・・。」
楽しそうに微笑む彼が横に座り、私の手から、写真立てを取った。
「確かに、ドレス姿のカナも、綺麗だよな。」
そう話す彼の視線の先には、先週の結婚式の写真が在る。
色々人を呼んでもキリが無いからって、小さな教会で、私達は式を挙げた。
本当に親しい人だけにしたから、身内と、私が寮に居た時の友達数人と、
それから、永瀬さんご夫婦も来てくれた。
この写真も、永瀬さんが撮ってくれた物だ。
彼の背が高いから、上手く2人が収まらないって言われたんだけど、
いつもの様にムキにならずに、彼は、楽しそうに私を抱き上げてくれた。
この後、私のヴェールが飛んでしまった事までもが、昨日の事の様に蘇ってくる。
「折角綺麗な髪なんだから、隠してたら勿体無いって事じゃないか?」
って、彼が言ったから、その後は外したままにして・・・。
ヴェールの無い写真も沢山あるけど、でもやっぱり私は、この、
彼にお姫様抱っこをして貰っている写真が、一番気に入っている。
「天使のカナも、捨てがたいけど。」
そう言いながら、彼は写真立てを差し出した。
”天使の私”って言うのは、彼と初めて会った日に聞いた、
夕陽の光を浴びた私の事らしい。
結婚してからも、何度かその話題が出てきたけど、どうやら、
時間が合えば、いつでも見れる物でも無い様だった。
何だか色々と条件があるみたいだったけど、自分自身じゃ見れないから、
未だに私は、どういう感じになっているのか解らない。
再び、式の写真に見入っていると、ふと彼が立ち上がり、仕事場の棚に向かい、
何やら棚の奥の方をゴソゴソとしている。
「・・・何か、探し物?」
私、ここに居たら、邪魔なんじゃないかなぁ。
探し物が終わるまで、別の部屋に居た方が良いのかも。
「あぁ、良いよ。 もう見つかったから。」
奥から取り出した物を、軽く持ち上げる。
何かの本・・・、あぁ、楽譜かぁ。
「久しぶりに、弾いてみようかと思ってさ。 ・・・横に来るか?」
義人さんが、ピアノ弾いてくれるの!?
曲を作る時に、少し弾いているのは何度か耳にしているけど、
1つの曲の、まとまった長い演奏は、まだ聞いた事が無かった。
「うん!」
早速リビングに行き、椅子を持ち上げると、横から彼の手が差し伸べられた。
「重いだろ?」
片手で、軽々と椅子を持ち上げる。
「楽譜、持つ?」
「これは良いよ。 ・・・別に、普通に持ててるだろ?」
即答に近い感じで、直ぐに答えが返ってきた。
「ここで良いか?」
ピアノに添えられた椅子の直ぐ側に置き、私の方を見ている。
「あ・・・、うん、義人さんが弾きやすい所だったら、どこでも。」
私が座るのを見届けて、彼も、椅子に腰掛ける。
楽譜は・・・、開かずに、そのままピアノに置く。
そして、彼は、ゆっくりと弾き始めた。
初めはゆっくりで、暫くして、ほんの少しだけ、テンポが速まる。
初めて聴く曲だったけど、どうやら彼は、ジャズを弾いている様だった。
「ねぇ・・・、それ、何て言う曲?」
数秒後、彼が答えた。
「angel eyes 。 ジャズの、スタンダードナンバーだよ。」
曲名も、初めて耳にした。
暫く弾いてから、再び彼が、口を開く。
「・・・天使みたいな可愛い女の子に惑わされた男が、愚痴を言ってる曲だってさ。」
弾きながら、悪戯めいた視線を、私に向ける。
「カナに、ぴったりだろ?」
・・・えっ、・・・・・・それって・・・。
「わ、私、そんな風に、いい加減な事した事無いし・・・、」
「そんなの、十分解ってるよ。」
楽しそうに、彼が笑っている。
「単なる、冗談だよ。」
多分、冗談なんだろうなぁとは思ってはいたけど、それでも少し焦ってしまった。
そんな会話をしながらも、彼は、ピアノを弾き続けている。
それにしても、義人さん、ピアノ弾くの上手だなぁ・・・。
彼はピアニストでは無いけれど、でも、自分の曲を自分で弾いたりして、
それをCDにしても、結構売れるんじゃないかと思う。
「でも、今頃あの男は、この曲みたいに、愚痴を言ってるかもしれないぞ?」
―――あの男って・・・。
「あの人の事!?」
だって、あの人とは全然そんなのじゃなくて、それは義人さんも知ってる筈だけど、
でも、最後にあの人は・・・・・・。
「今頃、カナの事、思い出してたらどうする?」
思い出してたらって・・・。
「そういう事言われても、私はあの人の事、
一緒に居るのも嫌になってたくらいなんだし、だから・・・、」
「あぁ、ごめんごめん。 ちょっと言ってみただけだよ。」
彼は、苦笑いを浮かべている。
「あ・・・、ごめんなさい。」
「カナが謝る事じゃ無いよ。 俺が、変な事言ったんだから。 ・・・はい、終わり。」
えっ・・・?
気が付くと彼の手が止まっていて、どうやら、曲が終わってしまった様だった。
「もう・・・、終わり・・・・・・?」
「不満そうだな。」
彼は、私の方を向いて、楽しそうに笑っている。
「だってぇ・・・。」
あの人の話なんかしてる間に、曲が終わってしまったなんて、勿体無い。
義人さんのピアノ、初めてだったのに、もっと聴きたかったなぁ・・・。
「しょうが無いな。」
笑いながら、彼は、楽譜に手を掛けた。
・・・もしかしたら、初めから、色々と弾いてくれるつもりだったのかなぁ。
うん、きっと、そうだよね。
使わない楽譜持ってきても・・・。
「はい。」
開いた楽譜から、数枚の五線譜の紙を取り出し、私に手渡す。
「あと、これも。」
こっちのは、プラスチックのケースに入った、白無地のCDだった。
・・・??
どういう意味なんだろう。
私、ピアノなんて、全然弾けないしなぁ・・・。
「ねぇ、義人さん・・・、」
「誕生日、おめでとう。」
―――えっ!?
「それ、バースディ・プレゼントだよ。」
プレゼント・・・?
突然の事だったから、頭が真っ白になる。
「カナが、誕生日プレゼント、特に欲しい物が無いって言うから、本当に困ってさ。
仕方ないから、曲にしたんだ。」
・・・曲?
えっ・・・じゃあ・・・・・・。
「義人さん、曲、新しいの、作ってくれたの?」
「新しいのじゃないと、プレゼントにならないだろう?」
彼は、いつもの様に、穏やかに微笑んでいる。
「結婚式が、プレゼントみたいな物だから、それで良いって言ったのに・・・。」
彼のタキシード姿は本当に素敵だったし、綺麗なドレスを着て彼の横に立てて、
それだけで、夢の様だった。
「そんな訳にいかないよ。 ・・・俺の時は、して貰ったんだから。」
「でも、あの時は、補助鍵付けて貰ったり、お父さんと会ってくれたり、
私の方が色々して貰って・・・、だから・・・、」
話の途中で、彼の手が、私の肩に触れる。
「良いよ、そんなの。」
ゆっくりと、彼に頭を撫でられていると、言おうとしていた言葉が、
全て消えうせてしまった。
「・・・誕生日、明日だし、思ってもみなくて、びっくりしちゃった。」
彼の手が止まり、今度は、指を髪に絡めている感触が伝わってくる。
「こういうのは、驚かせないと意味がないだろう?
・・・それにしても、本当にギリギリだな。
3月の最後の方の誕生日って、カナらしいけど。」
優しく、楽しそうに、彼が笑っている。
―――今まで生きてきた中で、一番素敵な誕生日だなぁ・・・。
彼の胸に顔を埋めると、ほんの少しだけ、強く、抱きしめてくれた。
じんわりと、彼の体温が伝わってきて、安心にも似た気持ちになる。
本当に、心地良い・・・。
「ねぇ、義人さん?」
「・・・うん?」
少しだけ低めの声が、耳元で震える。
「この曲も、聴いて見たいなぁ。」
微かな笑い声が、吐息に混じって、私の首筋をくすぐって行く。
「良いよ。」
そう言うと同時に、私を抱く腕が緩む。
少しだけ彼から体を離すと、涼しげな眼差しが、私を真っ直ぐと見つめていた。
「25歳の誕生日、おめでとう。」
そして、再び彼は私に近付き、軽く、口付けた。
―――来年は、どんな誕生日を迎えるのかなぁ。
もう、子供が、居たりして。
でも、ずっとずっと変わらず、義人さんが側に居てくれると良いな。
・・・ずっと側に居て欲しいなんて言ったら、当たり前だろうって、笑われそう。
優しく微笑む彼の背に手を回し、耳元に近付く。
「義人さん、だぁい好き。」
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